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[無料]第8回:書籍「アイドルに捧げた青春~アップアップガールズ(仮)の真実~」書評

今年のTIF、その2日目に行なわれたアームレスリング大会でのことだ。
タワレコ感謝祭の名物企画がTIFでも開催ということで、アプガからはおなじみ森咲樹と佐保明梨、さらに予選を勝ち上がったアプガ(2)の高萩千夏もエントリーしていた。
が、佐保は今回も初戦敗退。高萩はアイドルアームレスリング界の絶対王者と化している天性の怪物・酒井瞳に完敗し、さらには森も準決勝で敗れるという波乱が起きてしまう。
佐保が泣き、高萩が泣き、森も涙。こういう時、ナチュラルに容赦ないのが酒井である。号泣する高萩を見て「アプガってめっちゃ泣くよね(笑)」。
この一言に場内爆笑。まあ考えてみれば、アイドルが腕相撲で勝とうが負けようが、どうでもいいっちゃあいい話なのである。変に強くてもファンは引きかねないというか、むしろ弱いのが基本線。アイドルなんだから守ってあげたくなる存在じゃないとってことだ。強い場合は、やっぱり酒井のように無自覚なほうがいいんだろう。あんまりガツガツしていても「必死かよwww」となってしまうわけで。
しかしアプガは何を言われようが必死なのであった。もうあらゆる勝負に勝ちたくて仕方ない。他のアイドルたちを圧倒するライブがしたいし、たとえばテレビ番組で“負けたほうがバラエティ的においしい”みたいな場面でも全力で勝ちにいきそうな気がする。結果、勝つか負けるかは別として。
 
〈アプガの歴史は敗北から始まった〉
 
アイドル活動のすべてが勝負なのだ、アプガにとっては。そして勝負である以上、勝たなくてはいけない。何より負けたくない。負ける悔しさなら、過去に充分すぎるくらい味わった。グループとしてのアプガの歴史は、ハロプロエッグ研修期間修了という名の戦力外通告、すなわち大惨敗から始まっている。彼女たちは負けることがどんなに辛いかを知っていて、だから泣くのだ。
TIFアームレスリング大会での“号泣&爆笑”で、あらためて「あぁ、アプガってやっぱ異端、異色なのかな」と思わされた。実は、今まではそんなこと考えなかった。説明させてもらうと、僕は格闘技やプロレスを中心に記事を書くフリーライターで、「タイトルマッチに向けた意気込み」や「リベンジしたい相手」について、「ケガからの復帰にかける思い」などを選手から毎日のように聞いている。もちろん「負けた時の悔しさ」も。
スパーリングでボコボコにされ、トイレに隠れて悔し泣きしている若手が「見込みがある」と言われる世界で仕事をしているから、アプガの必死さ、その根底にある悔しさが、ごく自然なものに感じられる。
そもそも、今のアイドル界は“そういうもの”だとも思うのだ。キラキラ、ふわふわだけじゃない。日本で一番メジャーなグループからして、ファン投票でメンバーに順位をつけるという残酷なイベントで話題を呼んできたんだから。
さすがに、あまりの残酷さへの反動で、近年は「もっとうまいこと平和にできないのか」という流れになっているように感じる。アイドル活動を“闘い”だとして、プロレスや格闘技にたとえて語るという手法も、今はもう主流じゃないかもしれない。それが伝わる人たちばかりじゃないというか、ファン層も広がっているわけで。
そういう中で、アプガは「いや“闘い”なんだ!」と主張しているグループだ。アイドル戦国時代だって終わっちゃいない。なぜなら、私たちがまだ勝っていないからだ。ぶっ倒してやるこのこの野郎。誰に対してか分からないが、アプガはずっとそう言い続けている。それどころか、プロレスとアイドルを同時進行する妹分グループまでできてしまった。
『アイドルに捧げた青春~アップアップガールズ(仮)の真実~』は、そんなアプガの闘いの歴史を追った本だ。もともとはモーニング娘。に憧れ、それこそキラキラした世界に入ったつもりだったのに、なぜかフィジカルトレーナーのもとで体を鍛え、ファイターとしてのマインドでライブをするようになった女の子たちの物語だ。
なぜ闘うのかを語るには、過去、つまり敗北を見つめなければならない。ゆえに本書は、各メンバーのエッグ時代から、家庭内でのエピソードも交えてじっくりと振り返っていく。雑誌『TopYell』の連載をまとめたものなので多少、時系列が前後するところはあるが、全体の1/3まで読み進めたところでようやく「アップフロントガールズ(仮)」に佐保が加入するという“じっくり”ぶりだ。
 
〈メンバーが「読んでほしくない」赤裸々な内容〉
 
もちろん、僕もファンなので「アプガってそれだけじゃないよね。“闘い”だけが魅力じゃないよね」とも思う。ライブのMCで見せる関根梓の身振り手振り、群馬凱旋ライブにおける新井愛瞳のはしゃぎっぷり、古川小夏の猛烈な美少女ぶりと人懐こさ、仙石みなみの“事実上最年少な最年長”要素、佐藤綾乃の押し出しが強いようで弱いような、だから目が離せない感じ。見ていて微笑ましいし、とにかく可愛いじゃないですか。エッグとはいえダテにハロプロのオーディションに合格してるわけじゃない。いろんな意味で基礎的能力が高いと言えばいいだろうか。
そういうところは、本書ではあまり触れられない。悔しさの果てに掴んだ栄光についての記述も、ごく短いものだ。中野サンプラザ公演発表や即日完売報告のサプライズなどは、たっぷり描けば名場面になると思うのだが。
でもそういう“光”の部分は、ファンが実際に見てきた。ライブの楽しさ、メンバー個々の魅力は、ファンがツイッターや現場帰りの居酒屋でさんざん語っているだろうから、もうそれでいいというスタンスなのだろう。本書の目的は表に出ていない部分を掘り下げること。その結果、メンバーが「読まないでほしい」というくらい赤裸々な内容になった。
アイドルであるがゆえに(特に地方では)歪んだ好奇心を持って見られ、いじめの対象にすらなってしまう。ファンに何枚も同じCDを買わせてしまうビジネスの構造、そのことに対するメンバーの戸惑いも語られる。正直に言うと読んでいてしんどい場面もあるのだが、それすらもファンと共有したいというのが著者とメンバーの思いなのだろう。
本書の“重さ”は、つまりファンへの信頼の“重さ”でもある。その意味で、やはりこれはファンに向けたアイドル本なのだ。ただ一般的なものと違うのは、アイドルの声(気持ち)をダイレクトに届けるだけのものではないというところ。
 
〈「泥水をすすってきた」からこそ〉
 
帯のコピー通り『アイドルのリアルな姿を追った衝撃のノンフィクション!』が本書であり、装丁もポップなものではなく、あくまでシリアス。カラーページで使用されている写真はライブ中のもので、本来なら大きな売りになるはずのスタジオ撮りおろし写真などは一切ない。
インタビュー集ではなくノンフィクションなので、地の文における考察や関係者、家族、友人への幅広い取材もポイントだ。客観的、立体的にアプガという存在があぶり出されることになる。アプガ結成の背景に里田まいの予期せぬブレイクがあったことや、双子の妹から見た仙石の姿は新鮮だ。
「書かないでくださいと言ったことまで書かれた」とメンバーがクレーム(?)をつけるほどハードな内容の『アイドルに捧げた青春』だが、本人たちが“語る”アプガだけでなく、さまざまな人間によって“語られる”からこそ深みや迫力が出るということもあるのだ。
選手や団体の主張をそのまま伝えるだけでなく、各メディアや作家、ライターが独自の解釈でスポットを当ててきた“活字プロレス”にならって言うなら、本書は“活字アプガ”だ。無人島だと思ったら仲間がいた、恍惚と不安、牙を剥いたカムバック・サーモンといった、表面的な“プロレスワード”のことだけではない。トレーナーの足立光が語るライブの激しさとメンバーの満身創痍ぶり、「ここまでやらせていいのか」という葛藤などは、まるで三沢光晴たちが繰り広げた“四天王プロレス”を思わせる。
闘うアイドル集団であるアプガは、インスタ映えと同じくらい活字映えする存在なのである、きっと。やっぱりプロレスのたとえは今さら伝わりにくいか。でも彼女たちが勝つまで闘いをやめないということだけははっきりしている。音楽的な上達を目指しつつも、“洗練”を逃げ場にはしない。
なぜなら「泥水をすすってきた私たちだからこそ伝えられるメッセージがある」(佐保/本書より)からだ。この秋から5人になっても闘いは終わらないし、アームレスリングだって勝つまでやめられない。闘わない奴らには笑わせておけ。メンバーもスタッフもファンも、きっとみんながそう思っている。

文・橋本宗洋
【プロフィール】
Norihiro Hashimoto
1972年9月24日生まれ、茨城県出身
雑誌「格闘技通信」アルバイト、「SRS・DX」編集部を経てフリーライターとして「kamipro」などに執筆。現在は格闘技・プロレスを中心に「Number Web」「Abema格闘TIMES」などで活動中。 佐保明梨推し。

 


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応募期間:2017/9/4(月)~9/18(月祝)23:59

 


■タイトル
アイドルに捧げた青春~アップアップガールズ(仮)の真実~

■発売日
2017年8月18日(金)発売

■定価
1,800円+税

■体裁
四六判
1C256P+4C32P

■ISBN
ISBN978-4-8019-1027-0
C0076 ¥1800E

■「Top Yell」にて連載していたアイドルドキュメント『なぜそれでも少女たちはアイドルを目指すのか?〜真説・アップアップガールズ(仮)物語』が大幅に加筆修正をしてついに書籍化。メンバー、運営スタッフ、両親、友人、数々の周辺取材をもとに、ハロプロエッグ時代を含め13年に及ぶアプガのアイドル人生のすべてをえがきます。ハロプロエッグの解体、アプガ結成、一年間のカバー時代、ツアー中の衝突、事務所の移籍、2期の加入、そして卒業———表にはだせなかった彼女たちの本音が詰まった衝撃のノンフィクション!